当美術館へようこそ。『ひそやかな美術館』の管理人です。
今回も引き続きスポットを当てるのは、19世紀フランスのアカデミズム絵画を代表する画家、ウィリアム・アドルフ・ブグローが描いた傑作『天使の歌(Song of the Angels)』です。
生まれたばかりのイエス・キリストを抱いて眠る聖母マリア。
その傍らで、3人の天使がヴァイオリンやリュートを奏で、美しい調べを捧げています。
優しく、どこか切なさもあるこの名画に、実は思わず誰かに話したくなる「ある秘密」をご存知でしょうか?
今回は画面を彩る3人の天使たちにまつわる驚きのトリビアをお届けします。

3人の天使をよく見てみると…?
聖母子を囲む3人の天使たち。
それぞれが異なる楽器を持ち、少しずつ違う角度でうつむきながら、真剣な表情で音楽を奏でています。
光を透かすようなブロンドの髪、気品のある横顔、そして白く滑らかな肌。
時間を忘れて見惚れてしまいます。
ですが、ここで天使たちの顔をよーく見比べてみてください。
何か気づきませんか?
実は全員「同じ少女」がモデルだった!
実はこの3人の天使、すべて「同じ一人の少女」をモデルにして描かれているのです。
ポーズや顔の角度、光の当たり方を変えているため、パッと見は別の人物のように思えるかもしれません。
しかし、骨格や目元、鼻のラインを注意深く観察すると、全員が同じ面影を持っていることがわかります。
ブグローは一人のモデルを様々な角度からスケッチし、それを一枚のキャンバスの中で「3人の役割」へと見事に描き分けたのです。
天才ブグローのこだわりと愛娘の影
なぜ、わざわざ同じモデルを3人分として描いたのかと不思議に思いますよね。
そこには、完璧主義者だったブグローのこだわりと、彼のプライベートな物語が深く関係しています。
完璧な「理想の美」を追い求めた
ブグローは、人間の身体を極限まで美しくリアルに描く天才でした。
彼にとってモデル選びは妥協できない最重要プロセス。
「この世のものとは思えない神聖な美しさ」を表現するにあたり、彼は自分が最も理想的だと感じたお気に入りのモデル(一説には、彼の愛娘や、お気に入りの定番モデルの少女とも言われています)
のポーズを何度も変え、画面の中に理想の調和(ハーモニー)を生み出したのです。
一人のモデルを何役もこなさせることで、画面全体に不思議な統一感が生まれているのですね。
おわりに
この絵を所蔵するアメリカの美術館の記録によると、実はブグローの最愛の妻が、3人の天使(さらには聖母まで)のモデルを1人ずつ交代で務めたというロマンチックな逸話が残されています。
近年の美術研究でも、ブグローには『お気に入りのモデルを1枚の絵に何度も登場させる』という完璧主義なこだわりがあったことが分かっています。
ブグローの『天使の歌』に隠された、天使たちの秘密。
知った上でもう一度作品を眺めると、「あ、本当だ!この角度の顔も、あっちの天使とそっくり!」と、新しい発見があってワクワクしてきませんか?
一人のモデルから、これほど表情豊かで神聖な3人の天使を生み出してしまうなんて、ブグローの技術と表現力には改めて脱帽してしまいます。
あなたには、どの天使が一番魅力的に映りますか?
次回の「ひそやかな美術館」でも、
あなたのお気に入りの一枚になるような名画の秘密をお届けします。
どうぞお楽しみに。

ウィリアム・アドルフ・ブグロー 『天使の歌』(1881年) (パブリック・ドメイン)